雪のシカゴに、フォークの神様が舞い降りた。「かぐや姫」から40年。オリジナルキー変えずに歌い続ける名曲の数々に、フォーク世代は酔いしれた。
日本から毎年ゲストアーティストを迎えて開かれる、シカゴ日本商工会議所(JCCC)主催の恒例の新年会。今年のゲストは南こうせつ氏。言わずと知れたあの伝説のフォークグループ「かぐや姫」のメンバー&ボーカルにして、日本の70年代フォークを牽引した人物だ。
アメリカであまりトシの話をするのはマナー違反だけれど、なんと来年で70歳。彼の音楽にもろに影響を受けて育った私も「そりゃぁ、私もトシとるよね・・」としみじみ。はじめて手にしたギターで一生懸命「かぐや姫」をコピーした青春を想い出しつつ、そのご本人のステージを目の前で、しかもシカゴで見るという不思議な縁に心から感謝した。
この日、800人の観客の前で歌ってくれたのは、アンコールを入れて全12曲。「赤ちょうちん」「夢一夜」「加茂の流れに」「うちのお父さん」「妹」「神田川」などなど。観客の年齢層を事前に聞いたこうせつさんが、敢えて懐かしい時代の歌を中心に選んでくれたそう。会場では一緒に歌うお父さん、お母さんの姿。メロディを聞いただけで、友の顔や両親の顔、あのころの風景がよみがえる、これぞ歌の力だ。
ステージ前の席に座っていた伊藤在シカゴ総領事も、会場に降りてきたこうせつさんと共にアンコールの「上を向いて歩こう」を一緒に歌う。
■以下、ステージ後のインタビューより印象的だった言葉集。
“キャロル・キングは天才。おととし、彼女の来日公演を見ましたが、過去40年に見たコンサートのなかでベスト3に入るステージでした。”
「影響を受けた洋楽は、ピター・ポール&マリーの「花はどこへ行った」や「500マイル」、サイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」、「スカボロ・フェア」、「ミセス・ロビンソン」。詞がとてもシンプルでギター一本で素晴らしい歌を聞かせてくれることに、感激しましたね。それを入り口に、ジェームズ・テイラーとかキャロル・キング。もちろん、ビートルズ。ロッドスチュワート。エルトン・ジョンも大好きで、LPは全部持っています。」
“「神田川」はEmの、あの解放弦のギターの響きがいいんです。Dmだと「神田川」じゃなくなっちゃう。”
今も変わらぬ高声。
「(たとえ半音でも)音を下げるとギターのコードの響きが変わってしまうんです。だから全曲オリジナルキーを変えずに唄っています」
昔と変わらないのは風貌だけではなかった! (写真右は佐久間順平さん)
“絶対東京じゃなきゃダメだった。時代の風に吹かれることができないと思っていたんです。”
九州から大学入学のために上京したときの気持ち。「このまま田舎にいて地元の大学に入るなんて考えられない、絶対ここを出るんだ、とね。でも関西じゃダメだったんです」
当時同じような青年たちが、東を目指したにちがいない。
“20代で早くに売れちゃって、もっと人として幸せになれたらな、というの次の課題にぶつかった。それが自然の中で暮らすということだったんです。”
大分県杵築市に移住して30年以上。
「みかん農家をやめた人の土地だったんですけど、海の近くで『みかんの花咲く丘』のメロディーが流れてくるような場所だったんです。今は草木を育てて、森みたいになっています。」
“同じ人間だから、同じ目線で話しているだけです。”
前日、シカゴの日本語補習校で子供たちを前に歌を披露した。子供たちは大感激で大いに盛り上がったそう。なぜそんなに盛り上げることができたのか?特別な内容だったのか?と問われて。
“Keep On Going。天命を神さまに任せ切る力。死ぬまで転がり続ける、それがいいんじゃないかな。”
昨今、仲間の死に直面することも増えた。
「悲しいけど、死は自然なことなんだよね。逆らわないことです。その代わり自分が息をしているときは、息が止まる直前まで夢を見ていく、っていうことなんじゃないかな。」お寺の三男坊に生まれたこうせつさんの死生観は、幼いころから培われていたのかも。
“損をしても得をとるという日本人の知恵と、慈しみの心が今の平和と繁栄を培ってきた。この慈愛の精神を世界にメッセージしていくべきです。”
「70年代安保の時代に学生であり、フォークシンダー-になって、いろいろ考えることはありましたね。アメリカとのパートナーシップのなかで日本はどっちに向かっていくんだろう、と迷いながら僕たちは努力して生きてきた。経済的にも豊かになり、”軍隊”もなく今の地位を築いた。これは先輩たちが作った、世界の中で生きていく知恵だったんです。それを今、先が見えなくなってきている世界に貸していくべき。みんなが自分ファーストだと争い事が起こるんです。ちょっと損をしても得をとるっていう日本人のすごい知恵をもって、これからは 精神的なリーダーシップを取っていかないといけないと思います。そんな気持ちはいつも僕の心の根底にありますね。」
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