シカゴ在住の画家ミチコ・イタタニ (1948年、大阪生まれ、日系アメリカ人) による大規模な個展がシカゴの美術館ライトウッド 659 Wrightwood 659 で開催され、好評を博している。同美術館は安藤忠雄が内装を手掛け、2018年にオープンした。
『Celestial Stage 天空のステージ』と題された展覧会には宇宙や室内をモチーフにした絵画およそ60点が展示されている。ほとんどが2020年以降、コロナ禍の間に制作されたものだ。
イタタニの作品は1点のサイズが縦、横とも2メートルを超える大きな油彩が多い。
『 "Collection Sol III” painting from Celestial Maze 22-B-1 「コレクション・ソル III」天空の迷宮より 22-B-1』(2022年) では絨毯を敷いた和室に無造作に物が置かれている。地球儀、天球儀、ロケット、人工衛星。ソ連のスプートニク、アメリカのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。ノートパソコン、書籍。奥には本棚、さらに奥にはピアノとハープ。コンピューター制御室。天井からはシャンデリア、その上には満点の星。
『 “Cosmic Returning” painting from Quantum Chandelier 21-C-2 「宇宙の帰還」量子のシャンデリアより 21-C-2 』(2021年) はバロック様式の豪華な屋敷を思わせる。レッドカーペットの主役はピアノ、ハープ、バイオリン。ここにも多くの天球儀が置かれている。見事なステンドグラス、輝くシャンデリア。高い天井は、そのまま宇宙につながっている。
『 “Codebreaker” painting from Celestial Maze 20-B-01 「暗号解読者」天空の迷宮より 20-B-01 』(2020年) では地球や月などの天体が躍動的に描かれる。高層ビル群や公園など夜の都会が背景だ。
イタタニが描くのは科学と技術の発展によって人類の文化に寄与してきた物だ。知識のメタファーとして書籍や天球儀が頻繁に登場する。2020年春にコロナ禍が始まり、多くの活動が閉ざされた。「宇宙の歴史の中で人類の歴史はあまりにも小さく、人類は自らを滅ぼすかもしれない。だが私たちには今、与えられている貴重な時間があり、それを楽しむべきではないのか、と前向きに考えた。」とイタタニは当時を振り返った。
展示中のイタタニの絵画には人の姿が全く描かれていないが人間の存在と温もりが伝わってくる。光の点で構成される楕円の輪は、生命力や命の循環を連想させる。素朴で柔らかい筆致、明るく大胆な色彩で表現されたイメージを通して人間の持つ可能性や未来への希望を感じ取ることができるのだ。
画面には不可思議なノスタルジーも漂う。日本家屋はイタタニがかつて過ごしたであろう懐かしい空間だ。その障子や襖の描写は世代を超えて鑑賞者それぞれの記憶と感情に訴えかけ、強く印象に残る。
卓越した技術を持つイタタニは変形キャンバスを自身の作品に多用することでも知られている。
『 “Unquiet” painting/installation from Radiant Triage 99-A-2 「アンクワイエット」輝くトリアージより 99-A-2』(1999年 - 2022年) では、3枚の絵画を囲むように40個以上の五角形キャンバスが配置されており、展示空間そのものが作品になっている。この五角形キャンバスはイタタニが一個づつ自分で制作したものだ。
今回の展覧会はライトウッド659のアシスタントキュレーター、アシュリー・ジャンケ Ashley Janke が企画した。
ミチコ・イタタニはシカゴ美術館附属美術大学絵画科の名誉教授である。同大学の大学院修士課程を1976年に修了、その後40年にわたり指導してきた。1980年代に大型の変形キャンバスに描いた絵画で高い評価を得ており、作品はシカゴ美術館はじめ、バルセロナ現代美術館 (スペイン) 、ローザンヌ・オリンピック・ミュージアム (スイス) などに収蔵されている。シカゴ交通局 (CTA) 高架電車 L Train ワシントン駅 Washington station にはイタタニの作品が常設展示されている。
Wrightwood 659
659 W. Wrightwood Avenue
Chicago, IL 60614
773 - 437 - 6601
“Michiko Itatani: Celestial Stage"
ミチコ・イタタニ 公式サイト
金:12: 00 - 19: 00
土:10: 00 - 17: 00
料金:$ 15
要予約。入場券は下記ウェブサイトのみ購入可能。
(文責:斉藤博子 Text by Hiroko Saito)
Comments