
映画『とりつくしま』アメリカプレミア上映決定。
第19回を数えるシカゴのアジア映画祭「アジアン・ポップアップシネマ」が、3月20日(木曜日)に開幕し、日本からは7作品が3月22日を皮切りに公開される。
そのトップを切って上映される『とりつくしま』は、『カメラを止めるな!』を生み出した俳優・監督養成スクール「ENBUゼミナール」のシネマプロジェクト第11弾作品。監督は、長編デビュー作『ほとぼりメルトサウンズ』でも大きな注目を浴びた東かほり氏で、歌人・小説家である母、東直子さんの小説『とりつくしま』を原作に脚本・演出を手掛けた。ワークショップオーディションから選ばれた23名の俳優が4つのオムニバスストーリーに出演し、原作のファンである小泉今日子さんが重要な役どころで作品に寄り添った。
死んだあとモノに生まれ変わって大切な人のそばにいられるとすれば・・・死んだ後の”究極の選択”を描いた話題作は、国や宗教を超えてどのように観客に届くのか。アメリカでの初上映を前に、東かほり監督にこの作品について話をうかがった。

『とりつくしま』~ストーリー~
人生を終えた人々の前に現れる“とりつくしま係”は、「この世に未練があるなら、なにかモノになって戻ることができますよ」と告げる。夫のお気に入りのマグカップになることにした妻、だいすきな青いジャングルジムになった男の子、孫にあげたカメラになった祖母、野球の投手である息子を見守るため試合で使うロージンになった母。人生の最後にモノとなって大切な人の近くで過ごす人々の姿をそれぞれの物語で描き出す。
きかっけは”母との長すぎた確執への終止符”
始まりは「ENBUゼミナール」からの長編制作依頼だった。母の原作を娘が映画化と聞くと微笑ましいストーリーだが、監督いはくここまでの道のりは「孤独との戦いだった」という。
「私は30過ぎまで反抗期でした。ずっと母のことが苦手でうまく会話ができなかったんです」創作活動でいつも忙しかった母親にかまってもらえなかったという幼少期の体験がそうさせていたのかも、と東さんは振り返る。十代の頃は幾度となく激しくぶつかり合い、27歳で映画学校に入ると決めたときも反対され溝は深まった。しかし「今回長編映画製作のお話をいただいたのをきっかけに、それまでの自分はなんて大人気なかったんだろうという反省が生まれたんです。そこで母の原作である『とりつくしま』を題材に撮ろうと決めました」
前作『ほとぼりメルトサウンズ』(2021)の封切はコロナ禍の只中。昨日までそこにあった命が次々と失われていく日々のなかで、人の命がなくなってもその人が使っていた“モノだけが残る”ことにとりわけ切なさを感じた。あれから3年、同じく命を題材とした母の作品と向かい合った。
「あまり母の作品は読まなかった私が、高校生のときに唯一読んだのが『とりつくしま』でした。フィクションだけれどどの話もリアルでよく覚えていました。こんな機会はなかなかないし、恩返ししたいという思いもあって私の手で映画化することにしました。やっと大人になった、ならないと、という感じですね(笑) 当時の母はこんなことを考えていたんだ、と思いつつ、そのときの母と会話をしているような感じで作りました」

脚本は、原作者である母親の意見も参考にしながら全てかほりさんが書いた。原作にはなかったオリジナル、たとえば“とりつくしま係”を人にしたり、新たなシーンを追加するなどの設定や、衣装についても意見をもらった。
「映画の完成を誰よりも喜んでくれたのは母で、それがうれしかったですね」
4つのストーリーを彩る個性豊かな俳優たち

原作の11編のオムニバスのなかから映画化した4つのストーリーは、ワークショップのオーディションで登場人物を決め「あて書き」をしたのち選択した。
「ENBUゼミナールのシネマプロジェクトでは、ワークショップに参加される幅広い年代の方を見てキャスティングできるので、この作品にとても向いていました。『トリケラトプス』はメインキャラクターの”渉くん”の役者さんありき、『あおいの』は、私がよく遊んだジャングルジムに思い入れがあって。『ロージン』は原作の中でも一番人気のあるストーリーでもあり、最後に持ってこようと思いました。『レンズ』は、幅広い年齢の方をキャスティングしたかったので選びました」
マグカップ、ジャングルジム、レンズ、ロージン ------ 死者が選んだモノそれぞれには、家族のストーリーがあり、観る側はいつしか死者サイドから残された人たちをぎこちなく見守ってしまう。とはいえ、モノにもいつかは寿命が訪れ”二度目の別れ”はやってくるのだろう。そんな予感も含めて、現世を生き続ける人たちへのエールが美しいラストシーンとともに温かく胸に残る。
「リインカネーション(輪廻転生)」をどうとらえるかは、国や宗教や個々の信条によって異なる。海外ではどう受け止められたのだろう。
「オーストリアで上映したとき、ある男の子が『僕にもとりつくしまがあります。亡くなったお父さんのパイプをお父さんだと思って、悩み事があると煙に話しかけるんだ』と言いにきてくれたんです。国が違っても通じるものがあるんだなと思いました」
とりつくしま係 = 小泉今日子

今作で重要な役柄を演じているのが、小泉今日子さん。原作のファンだった小泉さんが、ラジオ番組のゲストに母の直子さんを呼んだご縁が結ばれた。
「今回“とりつくしま係”を人物として描きたいのでこの役を小泉さんにお願いたい、とダメ元でプロデューサーから依頼したところ、快諾してくださったんです。小泉さんは誰とも一緒じゃない魅力をお持ちで、すべての母のような方。この映画になくてはならない存在だと思います。超多忙なスケジュールの合間を縫って出演くださった小泉さんが、作品の出来を細かな部分に言及して褒めてくださったのがうれしかったです」
「アジアン・ポップアップシネマ」を主催するソフィア・ボッシオ(Sophia Wong Boccio)さんは、『とりつくしま』を本映画祭に招いた理由をこう語る。
「脚本・監督の東かほり氏は、亡き人がモノとして愛する人のもとに戻る、という独創的なひねりを『とりつくしま』で表現しました。輪廻転生を信じる、信じないを問わず、観る者に「死の先には何があるのか」という大きな謎を改めて解き深めようとさせてくれた。それがこの作品を選んだ理由です」
「第19回アジアンポップアップシネマ」は3月20日から4月13日まで、シカゴ市内の映画館で順次公開される。
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脚本・監督 「東かほり」 一問一答
― 前作の『ほとぼりメルトサウンズ』も、音で死者を“弔う”という内容でした。その死生観はどこで生まれたのですか?
小さい頃から「死んだあとどこへ行くんだろう」とすごく考えていました。ふつうに幽霊とか見えていたり(笑)。夢の中と死後がつながっていそうだなと感じたり、生きているものと死んでいるものとの境目が気になっちゃったり。生きていても死んでいる世界にちょっと入ったりしてるのかな、という感覚がありました。それを映画のなかでもどうしても入れたくなってしまうんです。死は怖いものではなく、身近なもの。お別れも悲しすぎずに描きたかったですね。
― 今、監督自身がもし生まれ変わるとすれば?
私はすぐいなくなりたいので、『ロージン』のような使い捨てのものがいいです。例えば、母の使い捨てコンタクトレンズ。コンタクトレンズをするときの母はおめかししているときなので、そういう母の一番いい姿を見られるから。

― シカゴでの上映がアメリカ初上映となりますが、観客の皆様に一言お願いします。
この映画がアメリカの皆様にどのように受け止められるのかがとても楽しみです。人や国によって考え方や死生観も違うなかで、ひとつでも共感してもらえたり、モノをみたときの目線が少しでも変わってくれたらうれしいなと思います。今回は残念ながら現地に行けないので、皆さまがどう感じたかがどんな形でもいいので知ることができたらとても幸せです。
(※シカゴ侍でも皆様の感想コメントをお待ちしております。ぜひお寄せ下さい。)
『とりつくしま』アメリカ(シカゴ)上映日程
日程:2025年3月22日(土曜日)
時間:2:00~4:30pm (開場:1:30pm)
場所:AMC NEWCITY 14 (1500 North Clybourn Avenue, Chicago)
『とりつくしま』公式サイト:http://toritsukushima.com/

■東かほり監督・プロフィール
グラフィックデザイナーをしながら映画監督としても活動。監督作『湯沸かしサナ子、29 歳』(19)で第9 回きりゅう映画祭グランプリを受賞した他、オムニバス映画『バウムちゃんねる映画祭』(21)にて『電力が溶けるとき』を監督。初長編映画『ほとぼりメルトサウンズ』(21)は、第17 回大阪アジアン映画祭、第22 回ニッポン・コネクション(ドイツ)、第14 回ソウル国際シニア映画祭(韓国)、第6回JAPANNUAL(オーストリア)に選出された。
■ 「アジアン・ポップアップシネマ」日本映画上映予定
3月22日(土)
「とりつくしま」
「サンセット・サンライズ」
「雪子 a.k.a」
3月29日(土)
「嗤う蟲(わらうむし)」
4月5日(土)
「侍タイムスリッパー」
※安田淳一監督と女優の沙倉ゆうの氏が登壇、映画の紹介とトークショーに参加する予定。
4月11日(金)
「敵」
4月13日(日)~クロージングナイト~
「カミノフデ ~怪獣たちのいる島」
※プロデューサーの佐藤大輔氏が来場。村瀬継蔵監督遺作賞の授与式や上映後のQ&Aコーナーもあり。
詳細日程はこちら
(取材・文:長野尚子 Shoko Nagano)
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