シカゴで年に2回開催される、アジア映画に特化した映画祭「Asian Pop-Up Cinema(アジアン・ポップアップ・シネマ)」。その“シーズン7”(2018年9月12日~11月14日)のクロージング作品として上映され、一大センセーションを巻き起こし堂々の観客賞を受賞した『カメラを止めるな(ONE CUT OF THE DEAD)』(監督:上田慎一郎)。ゲストに主演の濱津隆之氏を迎え、会場はゾンビ一色に染めあげられた。
製作費約300万円、無名の役者たちを使ったこの「カメ止め」(『カメラを止めるな』の略称)。2館でのスタートからSNSなどを通して“感染”が拡大しあっという間に全国公開、2018年の邦画興行収入ランキング7位を記録する大ヒット作品となった。また、イタリアやドイツ、NYなど、海外でも高い評価を得た。
完成から怒涛の1年余りを経て、当シカゴ侍は、プロデューサーの市橋浩治氏にインタビュー、この世紀の大ヒット作が生まれた背景や裏話をお聞きした。
まずは、昨年のシカゴ・プリミアでの「観客賞」おめでとうございます。シカゴでの印象について濱津さんからはどんな報告を受けられましたか?
― 濱津くんは「海外はどこへいっても日本人以上に受けるけれど、シカゴもすごく盛り上がって歓迎されました」と喜んでいました。あとはおいしい分厚いお肉を食べたこと。(笑)
「カメ止め」は海外の映画祭では観客賞をいただくことが圧倒的に多いんですよ。ありがたいことにお客さんはすごく評価してくれています。まぁ、そもそも「コンペ作品」ってかんじじゃないしね。シカゴの上映では、本当は上田監督に来てほしいと言われたんだけどスケジュールが合わず、「誰か来てくれたら上映する」という条件だったので濱津くんが「じゃぁ行きます」ってことになりました。(笑)
海外ではこれまでどんな映画祭で上映されましたか?
― 日本映画を含めたアジアの映画を紹介する映画祭、もしくはジャンル系の映画祭ですね。初めはホラー系映画祭に結構呼ばれていて評判になったんで、その後は多くの映画祭から声がかかるようになりました。特に海外で最初だった「ウディネ・ファーイースト映画祭」(イタリア)はいろんな国の映画祭関係者が見に来ることで有名で、そこで観客賞2位をいただいたことがその後大きく影響したみたいですね。
日本独特の“あるあるユーモア”の可笑しさは、(海外の上映で)お客さんはどれくらい理解できているんでしょうか?
― 難しいと思う。字幕だと伝わらないニュアンスがあるんだよね。いけすかないプロデューサーとかおばちゃんプロデューサーのあの面白さは、きっと字幕ではわかんないですよ。関西のおばちゃんの独特なお笑い要素とか、生意気なアイドルとか、字幕の文字ではなかなか伝わらないし、そこは海外では実はそんなに受けないんですよ。
Highlight of the evening video. This film has won the Audience Choice Award from the 17 titles selection! シカゴでの上映ハイライトシーンはこちらから!
そもそもこの映画は、映画監督・俳優養成スクールから誕生した作品なんですね。
― 僕が代表をしている俳優・監督養成スクール「ENBUゼミナール」で2011年から始めた、「シネマプロジェクト」の第7弾の作品です。当ゼミの卒業生たちで才能のある人たちが世に出るきっかけとなるような作品を作り、劇場でも公開していろんな人に見てもらう場をつくろうと思って始めたのがこのシネマプロジェクトで、2作品の監督は毎年僕が選んでいます。その監督のワークショップに参加したい人をスクールで募集して、その受講料とクラウドファンディングなどを製作費にあてて作った作品を劇場で上映します。ワークショップ参加者はその作品に出るのが基本で、「カメ止め」でもワークショップ参加者12人全員がキャストとして出演しています。
監督はどうやって選んでいるんですか?
― 基本的に新人監督を選びます。新人監督の登竜門と言われる映画祭などで見た作品をもとに、一度ご本人にお会いして選んでいます。
上田監督を選んだ理由は?
― 個人的に話をしたことはなかったけれど、以前から映画祭で彼の作品は見て知っていました。とんがったことをやりたがる新人監督が多いなか、彼のはオーソドックスなコメディとかいい話とか、そういう作風なんですよ。だからどちらかというと失敗はしないだろうなと思ったんです。もともと上田くんは、映画監督になるかお笑い芸人になるかと迷っていて、20歳そこそこで映画を作るために上京し、バイトをしながらお金をためて短編映画をいろいろ撮って映画祭などに応募したりしていた人。それまでは全くの独学だったので、製作団体に加わって現場でノウハウを身に着けた、たたきあげです。
市橋さんは校長であると同時に「プロデューサー」ですが、明確にはどういった役割の人なんでしょうか?
― 作品を製作する際、監督や役者を誰にするのか、お金はどうやって集めるのかを考え、製作中はお金(予算)の管理、完成後は劇場公開やDVDの二次利用などいわゆるお金を生み出すビジネスのところを担当するのがプロデューサーです。僕の場合は商業映画のプロデューサーではないので、クリエィティブなところは監督に任せています。
この映画の売り込みの手ごたえはどうでしたか?
― 「カメ止めは」はブッキングに苦労はあんまりしなかったですね。たいがいの映画は初週の売り上げが多くてそれから減っていくんですが、「カメ止め」は徐々に上がっていくかんじでお客さんが入りきれない状態だった。宣伝費もないなか、業界の人たちが結構気に入ってくれて宣伝をしてくれたり、メディアでも紹介してもらえました。
初めて脚本を読んだとき、手ごたえは感じましたか?
― ここまでの面白さは僕にはわからなかった。字面では前半と後半はほぼ同じことをやっているだけなんですよ。その面白さは映像のほうがわかりやすくて、実際にやっている役者たちも試写を見て初めて「めちゃ面白い作品ですね」って感動してましたね。
濱津さんは誰がどのように選んだんですか?
― 彼はもともと吉本の養成学校にいてその後コンビでも活動していたけれどやめてDJをやったり舞台系の役者として活動をしていた人なんです。以前、ENBUゼミのワークショップで集まった人たちを中心に舞台をやったときに彼が応募してたことがありました。その後やっぱり映画がやりたいと、この「シネマプロジェクト」に再び応募してきたんです。「カメ止め」の製作にあたって2チームに分かれてリハーサルテストをしてみた結果、監督があの役を濱津君に決めました。決め手は、演技力とあの「困り顔」がいいと。(笑)
濱津さんのみならず皆さんがはまり役でしたね。
― 撮影前に大枠の企画やシナリオは決まってたんだけど、12人の参加者を見て上田君がシナリオを書きかえたんですよ。つまり、その人の性格で「あて書き」をしているわけ。理由はふたつあって、まず本人が演技しやすいことと、演技力のある人ばかりじゃないので素のほうがはまりやすいこと。もしプロフェッショナルの役者をあの役にはめるとうそっぽくなっちゃうかもしれないね。普通の映画の撮り方だと現場でどんどん進んで行くのが前提だけど、「カメ止め」は本を書いて、キャスティングをしてリハーサルをして、また書き直してというプロセスを踏むことができたからこそ仕上がったんだと思う。
ワンカットのリハーサルはさぞ大変だったのでは?
― お金もないから何日間も現場で撮影はできないので、リハーサルには時間をかけました。ENBUゼミナールの教室とか、空いてないときは公園で出演者が自主的に集まって練習をやったりしていたみたいです。(※撮影時間は全8日間だった。)
あの37分のノーカット、タイミングがちょっとでもずれたら終わり。また頭から撮り直しだったんですか?
― いや、致命的でない限りばずっとやっちゃいます。そのミスも「映画を撮っている奴らのミス」っていうことであとから回収すればいいから。
ゾンビを追いかけるカメラマンが激しく転倒してしばらく地面のみが映るシーンがありましたが、あれはわざと?
― 実は、リハーサルのときに本気でこけてしまいそれが面白かったから本番ではそれを採用してわざとこけたんだよね(笑)。それから、カメラのレンズに血が飛んだのも本番での予期せぬできごとのひとつで、とっさにカメラを拭いてしまった。そういうハプニングが起きても、止めない。後半ですべて「ハプニングが起きた」というドラマにしちゃえばいいから。できたあとの試写はも大うけで感動で拍手喝采でしたよ。
「カメ止め」で得た効果は?
― このヒットで「インディペンデントでもいいものがあるんだ」という雰囲気が出始めたのを感じます。そういう映画を見よう、シネコンにかけよう、という動きになっているのでそこを継続したいし、継続するために力になればいいなと思っています。それと、これを機に役者さんたちが大手プロダクションを含めて事務所に入りました。そのことで今後出演の機会が増えたんじゃないでしょうか。
市橋プロデューサーのこれからは?
― 「ENBUゼミナール」の代表として俳優監督を育てる、目指す人たちを応援していくということに変わりはないです。この先も億単位の商業映画を作ることは全然考えていませんし、キャストもオーディションで選ぶというスタンスでやっていくつもりです。事務所の力ではなく役者の力で選ぶ、その映画のお話にあった人を選ぶ、その形のほうが断然面白い映画ができると思っています。
※お断り:侍と市橋氏は古い友人のため、たまに友達口調になりますことをご了承ください。
(取材・構成・文・ポートレイト撮影/ 長野尚子 Interview, Writing, photo/ SHOKO NAGANO)
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